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一条戻り橋4

2018.02.18 (Sun)


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「ここなんだよ、仕舞屋造りなんだ」
そう言って、懐かしささえ感じる優しい音とともに、
誘われるがままに格子戸を潜り抜けると、
出窓格子からのうっすらとした光が、建物の中の向こうまで射し込んでいました。

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あぁ、前に書いたことがある、留学生のボブのところも、
ここよりはずっと狭かったけど、
町家と呼ばれている、こんな建物だったこと、思い出していました。

「子どもたちも独立して、独りだからね。でも、リフォームには随分かかったんだよ。
 ちょっとしたマンション、買った方が安いくらいさ」

昔からの、京都の町家の間取りを活かしながらも、
床も壁も、吹き抜けの天井もモダンな設えで、裏庭の苔庭の可愛らしい木々なども、
本当に素敵に出来ていました。

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外見からは、きっと、想像できない洋風なフローリングの部屋、
興味深げに見ていた私の視線の先に、
あらっ!これ、さっき、清明神社でみた、あの、五光星の置物が、
微かな光を放ちながら、光っていたのを見つけました。
「あぁ、それ、清明の力が、少しでももらえるかなぁって。
 ちょっと待っててくれる、飲みもの持ってくるから」」

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そう言って部屋を出ていった、まぎれもない彼の声だったのに、
レストランで重ねてしまったお酒の酔いのせいでしょうか、
それとも、その五光星から放たれた怪しげな光のせいだったのでしょうか、
急に、めまいのようなものを感じ、
身体にまとわりついた何本の手に引き下ろされるようにして、
ふらふらと、傍らの趣味の良いソファーに、座り込んでしまった私。

そんな私の身体を包み込むように、
どこからか、彼のものではない、低い響くような声が聞こえてきたのでした。

「あなたとの契りを求める男の祈りをかなえるために、
戻り橋の下で、式神たちと逢わせたのです」

えっ! 式神って、あの陰陽師が使う妖怪? 
あぁ、もしかして、戻り橋の濃い影の中で擦れ違った、あの人たちのこと。

肌触りの良いソファーに寄り掛かるしかなかった私、
その言葉さえ、虚ろな頭の中では、
蕩けるようにしか、聞くことしか出来なかったのでした。


「ほら、すごいでしょ。
あれ、入れられちゃったら、女がどうなっちゃうか、
あなたも人妻だからわかるわよね。
旦那さんには悪いけど、一度知ったら、もう、
あなたの身体が忘れられなくなっちゃうわよ」

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一条戻り橋3

2018.02.14 (Wed)


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「ここも、面白いよね。知ってる?」

幾らもしないうちに着いたのは、あらっ、ここ、晴明神社。
平安時代に活躍した陰陽師、陰陽寮で占いや祭祀を司った人ですよね。
鳥居をくぐると、清明縁の五光星がデザインされた井戸がありました。
洋の東西を問わず使われている、あの魔術の記号、
ペンタグラムとかデビルスターとも言われるものです。

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学生時代、有職故実の授業の時に、幾らかお勉強をしたことがありましたし、
最近は、夢枕獏先生の作品で、映画にもなってましたよね。

「あなたの専門かもしれないけど、当時の人たちって、占いって大事だったんだね」
「そうですね。方違えなんかも、大切なことだったみたいだし」
「方違えか、今日、あたなとこうして向かう方向って、吉なんだろうか、凶なんだろうか」

二人の向かう方向っていう言葉に、ちょっと、どきってしました。
奥様を亡くした彼と、
そして、夫ではない人と、
こうして寄り添う合う時間を過ごす人妻であるはずの私。
いったい、どこに、向かおうとしていたのでしょうか。
そして、それは、吉なのでしょうか、それとも、凶なのでしょうか。
境内の奥の本殿で手を合わせながら、そんなことを思っていたのでした。

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北山駅の直ぐ近くの洋食レストラン、京都にお住まいなら、
ご存知の方、多いでしょうね。
私も、叔父さんたちに何度か連れて行っていただいて、
美味しい料理を楽しんだことがありました。

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でも、今夜は、予約していただいていたもったいないような個室での、
おまかせのコース料理みたいです。

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トマトのコンフィのアミューズ ブーシェから始まり、
食前酒はキールをお願いしましたが、美味しかったです。
リキュールとワインのカクテルで、ちょっと、強かったんですけど、
今は、いろいろなこと、忘れたかったのかもしれませんね、
ちょっと、飲み過ぎたみたい。

オードブルは、バプールとコンソメジュレって、よく覚えてるでしょ。
テーブルに置かれていたコース料理のメニュー持って帰ってきて、
今、ここにあるんです。ふふ。

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食事を終えると、彼、タクシーを呼び、
私、背中を押されるがまま、車中の人になりました。
「すぐ近くなんだ」
どこが?って、そうも思いましたが、
その時には、もう、両側に町家の続く細い石畳の路地に、降り立っていました。

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一条戻り橋2

2018.02.09 (Fri)


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約束をした一条戻り橋は、学生時代、校舎が近かったこともあって、
何度か通ったことのあるところでしたが、特に気に留めた場所ではありませんでした。
臨終に間に合わなかった父親が、冥土から蘇ってきたとか、
嫁がせた娘が戻ってこないように、この橋の近くには近づかないように言ったとか、
そんなお話は聞いたことがありました。

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堀川の水面に、両脇に並ぶ木々の新緑が映り、涼しげな緑風が吹き抜けていたものの、
思っていたよりも日差しがあり、日傘をもってこなかったことを悔やんだ私、
戻り橋の下の陰に入ろうと、川辺までの石段を下りたのです。

けれど、その時まで気付かなかった十人ほどの人が、
橋の下の濃い影の向こうから、浮かび上がるようにこちらに向かってくると、
私のすぐ横を、通っていきました。

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どのような人たちなのか分かりませんでした。
けれど、すれ違いざまに、ちらりと私を見たその鋭い目の輝きは、
夫ではない男の人から誘われるままに、暗い陰の中で一人で佇んでいるわたしを、
どうしようもなく、居たたまれない気持ちにさせたのです。

「申し訳ないけど、少し、歩くよ」
暫くしてやってきた、あの時と同じような素敵な彼に、
お昼をって言われ、戻り橋から西に向かう細い道を並んで歩きました。
「逢いたかった、あなたのこと、忘れられないでいたんだ」
そんな彼の言葉を、ただ、聞くしかなかったのです。

連れて行ってもらったのは、カウンターだけの小さなお店で、
生湯葉と絹揚げなどを頂きましたが、とっても、美味しかったですよ。
あぁ、このお店のオリジナルで、ブランデーで漬けた梅酒や、
豆乳のムースも楽しめました。

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「じつは、この近くに住んでて、ここ、よく来るんだ」
「えぇ、湯葉は好きで良く頂きますけど、ここのも、美味しいですね。
それに、他のお料理も、いろいろと工夫がしてあるし」
「あれから、何年経つんだろうね。思い出すよ、あの時のこと、あの時のあなたのことを」
そう言って、いくらかうつろな眼差しを、箸先に向けた彼。
二年前の、あの時間の、何を思い出していたのでしょうか。

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夜は予約してあるから、暫く、散策しようって、
お店を出たあと、二人で歩きました。
数年ぶりに出逢って幾らも経たないまま、
身体を寄せられて、手のひらを絡み合わせられても、
何も抗うこと、しなかったのです。

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