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「幸せの行方」 その4 出会い

2009.06.07 (Sun)


●ラウンジ

すれ違った女性の素敵なドレスに目を取られ、
男の人の胸に衝突してしまった。何かしら良い匂いがした。
謝ろうとして顔を上げると、
「今日は良い日だ。あなたと又会えたから。」
そう言う懐かしい顔が微笑んでいた。

順子はホテルのラウンジが好きだ。
習い事の後ここで暫くの時を過ごす。
静かな流れの中に身を任せるのは、順子にとっては大切な時間だった。

その日、順子は絵葉書に万年筆を走らせ、
大学時代の女友達にたわいもない近況報告を書いていた。
大きなガラスの向こうには良く手入れのされた庭園があり、
テーブルの上には檸檬茶と読みかけの文庫本が伏せてあった。

「ご一緒したいと言ったら、嫌われますか。」
声を掛けられることは多かったし、断ることも無視することにも慣れていた。
けれど、何故かその時は微笑みを返してしまっていた。
怪しい者ではないと、テーブルの上を滑らせてきた鶯色の名刺には、
「 写真家 柏木 」との印刷された文字があった。

京都でスタジオや写真教室を経営し作品集も随分と出している。
毎年日本海の秋を撮りに、ひと月程度の予定でこのホテルに在住しているが、
絵はがきに夢中なあなたが余りに美しくて魅力的だったから、
思わず声を掛けてしまったことを許して欲しいと、はにかみながら頭を下げた。
歯の浮くような有り触れた文句だったが、
なぜかこの人が言うと嫌みも嫌らしさも感じなかった。
幾つなのかよく分からなかった。
夫より少し若いのかとも思われたのは、
なんだか幼い面影を感じたせいかもしれない。

こんな場面では、すべての誘いを拒絶していた自分が、
何故か、始めて会った人の前で、
たわいもない話に相槌を打ち微笑んでいることに、
我ながら新鮮な驚きを覚えた。

檸檬茶のカップが底を見せた時、残念そうに彼は席を立った。
「できれば また 会いたいけれど、時の行方は誰にもわからないから。」
そんな言葉だけが心に残った。


作品集

始めて会話を交わしたあの時と同じテーブルで二人は向かい合っていた。
庭園の池では渡り鳥だろうか、羽の繕いに余念のない数羽の鳥が見える。

柏木の作品を見せて貰ったことを話すと、
驚いたような表情を見せたが、すぐ笑顔に戻った。

柏木と始めて出会ったあの日、
帰宅してネットでそれとなく彼を探してみた。
期待はしていなかったのに、
思いの外有名な写真家であることが分かった。
ホームページには、本人の写真も載せてあり、
更新直後なのか、その日会った時の雰囲気と違和感のない様子で微笑んでいた。
彼に関係した他のサイトにも目を通してみたが、
評判はすこぶる良く、人間的にも申し分のない人のように思われた。
分からなかった年齢は、思いがけず夫と同じ歳だったし、同じ血液型だった。

直ぐに注文した風景とポートレイトの二冊の写真集は2日後に届いた。
国内の各地の四季を追って撮られたものは、
どれも心が洗われるほど素晴らしいものだった。
目の保養という言葉の意味を理解したような気がした。
ポートレイトの方は、数名の裸婦を丹念に撮ったものだったが、
順子はこちらの作品にも心が揺らされた。
同じ女性として嫉妬するほど美しく撮ってあった。
何れも女性の顔は、
僅かにあご先の輪郭が見える程度で判別はできなかったものの、
遮が掛かっていながら、
それらの肌のきめ細やかさや温もりまで感じることができるようであり、
嫌らしさは全く感じられなかった。

そのことを話すと笑顔が少し引き締まり、
二つの作品に関する簡単な解説をしてくれた。
驚いたことに、
裸婦のモデルは何れも街中で声を掛けて撮影をお願いした女性で、
全くの素人だそうだ。
学生もいたし、人妻もいた。
撮られることについて、即答で了解してくれた人もいたし、
随分と悩んだのだろう、後日断ってきた人もあったそうだ。

「美しいこの街の美しいあなたを、是非撮ってみたい。」
思いも掛けない言葉に、狼狽えた気持を隠すことはできなかった。

作品はご覧になった写真集の続編のために撮るものです。
 心配されるようなことはありません、
こういう仕事は信用が大切ですから。
 あなたが嫌だと思うことは絶対にしないと約束します。」

●約束

二千坪と言われるしっとりとした庭園を見ながら離れ座敷に入ると、
窓の外に黒光りをした瓦屋根の街並みが見事に広がっていた。
順子もそうそう訪れたことのないこの料亭旅館は、
日本でも屈指の美食家が、若い頃料理を学んだとも言われている。

黒い瓦屋根を撮るだけのために、この部屋に数日居たことがあったが、
とうとう光線の具合に恵まれないで、酒だけが慰めてくれたことなど、
柏木は杯を勧めながらも、なぜか言葉の数は少なかった。

「約束は守ってくれましたか。」

隣町の駅で彼の車に拾われた順子は、暫くしてこう切り出された。
その言葉に、後悔と迷いが混ざった複雑な感情が湧き上がった。

「黒い瓦屋根とあなたの白い肌のコントラストは、
私に強い作品意欲を描き立たせるんです。
 何にも束縛されない、何にも縛られないままのあなたを撮りたいから、 
 肌に下着の跡を残さないように、前の夜から何もつけないでいて欲しい。」

それが約束だったのだ。

随分と気を使った。京都で求めた長めのコートに守られていたものの、
タクシーを降りて彼の車を待つ間も、何かしら心もとなかった。
 
空いていた彼の右手が膝の上に置かれたというのに、
叱ることも振り払うこともしなかったし、できなかった。
完全に彼のペースに既に飲み込まれていたのだろう。
諦めたように閉じた瞳には、作品集で見た美しい裸体が浮かび上がっていた。


「この浴衣を着て頂けますか。」

と手渡されたものは、一目で加賀染めのものだと分かった。
手に取ってみると藍色の見事な絞りで、
浴衣と言ってしまうにはもったいない贅沢なものだった。

「無理なお願いばかりで、すいません。
撮影が終わったらあなたのものです。
ただし、仕立てを少し直して下さい。随分と長目に注文してありますから。」

見あたらない帯のことを聞くと、
今夜は必要ないからと、言葉を濁された。
分かっていることではあったが、
彼の思いのままにことは進んでいた。
そして自分は、彼の考える夜を、彼の考えるままに、
過ごすしかないのだと思った。

浴室の前の化粧台で持たされた浴衣に着替えてみる。
順子の白い肌に、濃い藍色がよく映えてとても素敵だった。
ただ、言われたように裾が思いの外随分と長目で、
そのままだと裾の長い部分を、
擦ってしまうのは間違いなかったし、
両手で上げると重ねが開いて胸元が露わになった。
このままの後ろ姿や寝姿を見るには良い着物だが、
帯がなければ、着るものにとって難しい着物だと思えた。

二本のスタンドに傘のようなライトがそれぞれに用意され、
赤い毛氈のような敷物の上には、
清潔そうな上質の白いシーツの寝具が伸べられている。
言われるがままに帯のない浴衣でその上に横座りすると、
案の定、重ねが開いて白い胸と僅かに黒いものが覗いた。

●柔らかいフラッシュ

随分と時間は過ぎていた。
柏木の言葉のままに幾度も体位を変えたが、
その度に多くの不思議に柔らかいフラッシュが光り、
その光を浴びる毎に、体温が少しずつ上がるような気がした。
白い裸の肌が、うっすらと桜色になったような心持ちになり、
何もされていないのに、全身を撫でられたように呼吸が乱れた。

立ち姿のまま浴衣を外すことを求められたとき、
あの作品集の女性達のことを思った。
あの人達はどんな気持で、
この人の前に何も隠さない自分の身体を開いたのだろうか。
今の自分にもこの人の言うことを断わることが出来ないまま、
肩を乳房を腰を太股を、滑り落ちる浴衣を止めることはできなかった。

顔を枕に埋めて、腰を高くあげる姿を求められた。
確か作品集にもそのようなポーズがあったことを思い出した。
たわわな乳房と丸みを帯びた臀部が強調された作品で、
男性にはない、女性の最も女性らしいものを感じさせる写真だと思った。
恥ずかしい姿だとは思わなかったのは、
その作品からは、嫌らしさのかけらも感じることがなかったからだ。
あの写真のように上手に撮ってくれれば、
自分としては満足するだろうと思えたが、
その事とは別に、
明らかに濡れ始めた自分の身体に気づかれることが堪らなかった。

顔を埋めて、ゆっくりと腰だけを上げた。
太股が開いて冷えた空気が、
濡れた部分を探し出すように入り込んで来た気がした。
おびただしい状態であることは、間違いなかった。
思わず自分が細く甘い声を出してしまったことに驚いていた。
身体はもう充分に男の人を迎える準備を終えていたのだ。

順子の身体の横にいて、座り込んでレンズを向けていた彼が、
シャッターを切りながら少しずつ背後に回ってきた。
「もう少し 広げて。」
とても出来ない注文のはずなのに、なぜか言われるままに膝が離れた。
花びらが開いているのがわかった。
そして、そこから溢れたものが、今、当に滴り落ちようとしていることもわかった。
こんなに恥ずかしいことを自分は望んでいたのだろうか。
目頭が熱くなった。

●相性

自分の花びらに触れたものが、彼の舌先であることに気付き驚愕した。
しかし、動くことは出来なかった。
順子の身体の他のところには、一切触れることなく、
彼の舌先だけが女の部分に触れていた。
舌先の僅か数センチが、
順子の花びらを丁寧に、そして静かに分けながら、
飽くことなくなぞりまわっていた。
こんな愛され方は始めてのことだった。
僅かな間に順子はその姿のまま、
あえなく上り詰めることを、彼に伝えるしかなかった。

舌先の動きに加えて、柔らかい芽に指先が触れたのは、
順子の呼吸が僅かに落ち着き始めたときだった。
触れるか触れないと思えるほど微かではあったが、
実に効果的に順子を悶えさせた。
彼の唇は順子の秘唇と合わさり、
溢れ滴る蜜を嫌らしい音を立てて啜り上げ、
芽への接触とも相まって、
僅かの間もなく二度目の喜びの声を上げさせていた。

順子は髪を激しく左右に揺らしていた。
舌先と指先は存分に花びらと柔芽と蜜を楽しみ、
後ろの最も秘密の部分にまで及んだ。
はしたない声を枕で押し殺すのに必死になっていたが、
身体を揺らされることなく、痛みを感じることもなく、
とうとう我慢しきれず四度目の麻痺を起こした。

「あなたが嫌なことは、しないことが約束でしたね。」

一度身体を離した彼は、暫くして自分のものに順子の指を絡めさせた。
それは、妊娠に対する不安を払拭させるものだった。

彼の両手が腰に回り、
これまでの動き同様、ゆっくりとした挿入が始まった。
恐ろしい声を上げそうな予感がした順子は、泣きながらシーツを噛み締めた。

穏やかな動きは何時果てることもないように繰り返された。
激しさも痛みもなかったが、
不思議なことに喜びは計り知れないことのように感じられ、
後ろからたわわな乳房をゆっくりと持ち上げられ揉まれた事が引き金になって、
とうとう恥ずかしい声を上げながら、真っ白になるような高みへ上り詰めていった。

営みを終えて、長い時間彼の腕の中でまどろんでいた。
優しく髪や肩口や腕をなぜられながら、時折額や頬に彼の唇を感じた。
不思議なことに初めて肌を合わせたというのに、
恋人たちが過ごすとろけるような時間だった。
身体の相性ということを始めて感じた。
夫を含め僅かばかりの経験しかないが、
自分の身体は彼のために作られたように思えた。
それは、唇の形も、合わさった胸の位置も、握り締めた手の平の広さも、
そして、繋ぎ合った彼のものは、
僅かの隙間もないように自分を埋め合わせていたように思えた。


シャワーを使わせてね。
独り言のように言うと、身体を起こしバスルームに向かった。
大きな鏡の前で自分の顔と身体を見た。
起きぬけというのに、なぜかさっぱりとした顔をしていて、
自慢の肌も、更にその白さを増しながら輝いているように感じられた。
あっ と、小さな声をあげた。
いつの間にか、
左の乳首の上に、彼の唇の跡がうっすらとつけられていた。
そっと指先で触れてみる。
夫が帰国するまでには、消えてしまうだろうと思えたが、
そのことよりも、そんな計算ができる女になった自分に、少し驚いてもいた。

誰の時よりも、背徳の念が強く感じられた。
今回ほど、夫を裏切ったという気持ちが強く感じられたことはなかった。
一人は夫が望んだことだったし、一人は酔いからくる過ちだった。
けれど、今度は随分と違うように思えた。
避ける時期はいくらでもあったはずなのに、
彼の思うがままに、彼から言われるがままに、
順子自身が心と身体を許していたような気がした。

いつの間にか背後に彼が来ていた。
初めて会った時のように、幼さが残る優しい笑顔を見せ、
鏡に映っていた豊かな乳房を、
彼の両手が持ち上げるようにしてその感触を楽しみ始めた。

「このしるしが消えるまでに、また、愛し合えればいいね。」

振り向いた順子は、その返事のかわりに伸び上がると、
恋人たちのように唇を求めていた。


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